キュリクスに合うワインといえば、なんといってもギリシャワインでしょう。味が合うというよりも、ギリシャワインを古代ギリシアの器で飲むという贅沢な気分を味わえるからです。
現代のギリシャワインをキュリクスに注ぎ、器の重さや口当たり、ゆっくりと揺れる酒面を眺めながら味わうことで、2500年前のシュンポシオンを少しだけ身近に感じることができるでしょう。
ここで紹介するのは現代ギリシャで造られているワインです。
古代ワインについては別ページで紹介していますが、本ページでは、現在ギリシャで造られ、日本で入手できる代表的な赤ワイン3種と白ワイン1種を実際にキュリクスへ注ぎ、その味わいを紹介します。
※あくまでも、羊皮紙陶房の個人的な見解です。また、ブドウの種類別に紹介していますが、同じブドウでも収穫年、メーカー、製造法により味わいは異なります。
※ここで紹介するもの以外にも、日本で手に入るギリシャワインは多数ありますが、あくまでもキュリクス主体のウェブサイトですので、紹介するワインの数を絞ってあります。
フィリア・ギ リムニョナ 2018(Filia Gi Limniona 2018)

産地:ギリシャ・テッサリア地方
品種:リムニョナ 100%
テッサリア地方原産の土着品種リムニョナから造られた赤ワインです。オーク樽で熟成されており、落ち着いた樽香と果実味の調和が楽しめます。
ちなみに、リムノス島で作られている「リムニオ」と間違えやすいですが、まったくの別品種です。
テイスティング
今回試した3本の中で、最も複雑で奥行きを感じたワインでした。
まず樽熟成による落ち着いた木の香りがゆっくりと立ち上ります。サウナに入ったときの木材を思わせる穏やかな香りの奥から、熟した果実の甘い香りが重なり、華やかでありながら落ち着いた印象を受けました。
口に含むと、舌先には心地よい刺激があり、ほどよい酸味と果実味が広がります。重厚すぎることはなく、滑らかで飲みやすい口当たりですが、木の風味、果実味、酸味、ほのかな甘みが幾重にも重なり、味わいに深みを与えています。
飲み込んだ後には、樽由来の木の香りと爽やかな果実香が鼻へ抜け、穏やかな余韻が続きます。後味にはレモングラスティーを思わせるような清々しさも感じられ、ゆっくりと時間をかけて味わいたくなる一本でした。
今回試した3本の中では、個人的に最も好みだった、リピートしたいワインです。
キュリクス
このワインの生産地テッサリア地方は、ギリシャ神話の舞台として知られる土地です。北には、ゼウスをはじめとする神々が住むとされたオリュンポス山がそびえ、トロイア戦争の英雄アキレウスの故郷もこの地方にありました。
オリュンポス山では、神々が宴を開いたと伝えられています。キュリクスを手に、その神々の宴に思いを馳せながら味わうのも、このワインならではの楽しみ方です。
アキレウスや酒神ディオニュソスが描かれたキュリクスで飲めば、このワインの故郷と古代ギリシャの世界が重なり、より豊かなひとときを楽しめそうです。
サントール・アギオルギティコ 2022(Sant’Or Agiorgitiko 2022)

産地:ギリシャ・ペロポネソス半島
品種:アギオルギティコ 100%
ペロポネソス半島を代表する土着品種「アギオルギティコ」で造られたオーガニック赤ワインです。天然酵母による自然発酵を行い、フレンチオーク旧樽で約6か月熟成されています。
テイスティング
赤い果実を思わせる爽やかな香りが立ち上ります。
口に含むと、軽やかな口当たりのあとに、舌先へ心地よい刺激が広がります。果実味はみずみずしく、飲み込んだ後には鼻へ抜けるフレッシュな果実香が印象的でした。
タンニンは比較的しっかりとしており、口の中には心地よい収れん感が残ります。重厚な赤ワインのような力強さではなく、全体としては軽快で、若々しい印象の味わいです。
単体で飲んだときには果実味が前面に感じられましたが、3本を飲み比べると酸味がより際立ち、最も爽やかで軽快な印象を受けました。ギリシャを代表する土着品種らしい、生き生きとした個性が感じられる一本でした。
キュリクス
このワインの生産地であるペロポネソス半島は、数多くのギリシャ神話の舞台となった土地です。英雄ヘラクレスが最初の功業としてネメアの獅子を退治したとされるネメアも、この地域にあります。
この地の代表的なブドウ品種であるアギオルギティコは、力強い赤色にちなみ、現代では「ヘラクレスの血(Blood of Hercules)」とも呼ばれています。
ヘラクレスは古代ギリシア陶器にも数多く描かれた人気の英雄です。ヘラクレスが描かれたキュリクスでこのワインを味わえば、古代の英雄譚とペロポネソスの豊かな風土を、より身近に感じられそうです。
キリ・ヤーニ ラミニスタ 2020(Kir-Yianni Ramnista 2020)

産地:ギリシャ・マケドニア地方
品種:クシノマヴロ 100%
ギリシャを代表する高貴な土着品種「クシノマヴロ」を100%使用した赤ワインです。16か月のオーク樽熟成を経て造られています。
テイスティング
とても透き通った瑞々しい色で、キュリクスにそそぐと底の絵が見えます。リムニョナとアギオルギティコは飲み干す寸前まで絵が見えなかったため、透明感が際立っていることがわかります。
口に含むと、甘いバニラを思わせる香りが立ち上ります。さらにキャラメルを思わせる柔らかな甘い香りが重なり、16か月のオーク樽熟成の味わいを実感します。
舌先への刺激は穏やかで、全体として非常になめらかな口当たり。タンニンはしっかりと感じられますが角はなく、きめ細かく滑らかで、心地よい収れん感が広がります。フレッシュな果実味も豊かで、温かみのある果実の風味が口いっぱいにゆっくりと広がっていきます。
余韻にはほのかな甘い香りが残り、果実味と樽由来の風味が穏やかに調和します。3本を飲み比べると、甘い果実の香りやキャラメルを思わせる樽香が印象的で、アギオルギティコよりも丸みがあり、落ち着いた味わいに感じられました。
力強さを前面に押し出すというよりも、果実味と樽香、そして滑らかなタンニンの調和を楽しめる、上品でエレガントな一本でした。
キュリクス
このワインの生産地ナウサは、ギリシャ北部・マケドニア地方に位置します。古代マケドニアは豊かなブドウ栽培で知られ、ワインは王侯の宴や神々への奉献に欠かせない存在でした。
とりわけ酒神ディオニュソスへの信仰はこの地方でも篤く、ワインは神から授けられた恵みとして大切にされていました。
ディオニュソスが描かれたキュリクスでこのワインを味わえば、古代の宴の情景に思いを馳せながら、マケドニアの豊かな風土とワイン文化をより身近に感じられそうです。
レッツィーナ・アンフォーラ(Retsina Amphora)

産地: ギリシャ・ペロポネソス半島 アノ・ディアコプト
品種: ロディティス 100%
ギリシャワインと言って真っ先に想像されるのが、伝統的な白ワイン「レッツィーナ」です。醸造中に天然の松脂を加えることで独特の風味を与える製法が特徴で、その起源は、アンフォラの口を松脂で密閉してワインを保存していた古代ギリシアまでさかのぼるといわれています。
今回試したテトラミトス・ワイナリーの「レッツィーナ・アンフォーラ」は、オーガニック栽培のロディティス種を用い、粘土製アンフォラで発酵・熟成された一本です。古代のワイン造りを現代によみがえらせようとする意欲的なワインでもあります。
テイスティング
まず感じたのは、非常に爽やかで清涼感のある香りでした。甘さはほとんどなく、全体としてすっきりとした辛口の印象です。
口に含むと、舌の横にわずかな刺激を感じ、舌の奥にほのかなまろやかさが残ります。果実味を前面に押し出すタイプではなく、シャープでドライな味わいが印象的でした。
「松脂ワイン」と聞くと、樹脂のようなスーっとした味わいや香りを想像していましたが、実際には松脂の存在はほとんど感じませんでした。ただ、表面に現れていなくても、全体として冷涼で引き締まった印象を出しているのかもしれません。
比較のためシャルドネ(チリ産 O レゼルヴァ シャルドネ)と飲み比べてみると、レッツィーナの特徴が引き立ちました。シャルドネは香り高く、フルーティーで華やか、丸みのある味わいですが、レッツィーナはスパイシーでシャープ、そしてドライです。
真夏の暑いギリシャの海辺で、魚介料理やオリーブ、ハーブを使った料理とともに味わいたい爽やかな白ワインです。
ちなみに、ネットでレッツィーナの評判を見ると、「クセが強い」「苦手」などのレビューも散見するのですが、メーカーや時期によって異なるのでしょうか。少なくとも今回試したテトラミトス・ワイナリーの「レッツィーナ・アンフォラ」はとてもスッキリと飲みやすいワインでした。
以前、サヴァティアーノ種を使ったアオトン・ワイナリーのレッツーナも飲んだのですが、こちらもスッキリおいしいワインでした。
いつかクセ強のレッツィーナも飲んでみたいものです。
キュリクス
キュリクスで白ワインを飲むのは少し意外に感じるかもしれませんが、白ワインならではの魅力もあります。
赤ワインの場合、ワインを注いだ後はほぼ全面黒く見え、飲むにしたがって見込み画(トンド)が現れるというのが特徴です。一方、白ワインではワインを注いだ状態で見込み画がよく見えるため、食卓に彩りを添えてくれます。
また、今回のレッツィーナは松脂の香りが強く主張するタイプではなく、爽やかで繊細な味わいのワインでした。そのため、ワイングラスに鼻を入れて香りを楽しむというよりも、広口のキュリクスなら周囲の空気を感じながら味わえるため、より清涼感が増すように感じます。
赤ワイン3種類を飲み比べてみる


それぞれ単独で飲んだあと、3種類を同時に飲み比べてみました。キュリクスだと色がわかりにくいため、ここではグラスを用います。
時間を置かずに飲み比べると、それぞれの個性がよりはっきりと感じられます。同じギリシャの土着品種であっても、香りや味わいは驚くほど異なっていました。
※ここでは、上記のワインの名称だと長いため、ブドウの種類で区別しますが、ブドウ単体の特徴ではなく、熟成方法も含めたワインの特徴です。
リムニョナ
最も複雑で奥行きのある味わいでした。樽熟成による木の香りと果実味、ほどよい酸味、ほのかな甘みが幾重にも重なり、一口ごとに印象が変化します。サウナに入ったときの木材を思わせる落ち着いた香りが特徴的で、後味にはレモングラスティーのような爽やかな余韻が鼻へ抜けました。
アギオルギティコ
最も軽快でフレッシュな印象です。単独で飲んだときには果実味が印象的でしたが、飲み比べると酸味が最も際立ち、爽やかで引き締まった味わいに感じられました。3種類の中では最もシンプルで親しみやすい一本です。
クシノマヴロ
甘い果実の香りが最も豊かで、キャラメルを思わせる樽香が印象的でした。タンニンはしっかりと感じられるものの非常になめらかで、全体に丸みがあります。3種類の中では最もエレガントで、落ち着いた味わいでした。
飲み比べて感じたこと
ギリシャワインというと一括りに考えがちですが、実際にはワインによって個性は大きく異なります。
- リムニョナ:複雑で奥行きがあり、木の香りと果実味の調和が魅力。
- アギオルギティコ:軽快でフレッシュ。酸味が味わいを引き締める。
- クシノマヴロ:甘い樽香となめらかなタンニンが調和した、丸みのある味わい。
どれが優れているということではなく、それぞれに異なる魅力があり、産地や品種、醸造法の違いが顕著に表れていました。
古代ギリシアでも各地でさまざまなブドウが栽培され、地域ごとに異なるワインが楽しまれていました。2500年の時を経た現代でも、その土地ごとの個性豊かなワイン文化が受け継がれていることを実感しました。
