古代ギリシア陶器の制作技法

古代ギリシア陶器は、美しい絵柄だけでなく、高度に確立された制作技術によって支えられていました。

アッティカ地方では、良質な鉄分を含む粘土を用いて器を成形し、黒像式・赤像式といった独自の装飾技法を発展させました。さらに、酸化と還元を巧みに利用した焼成によって、鮮やかな赤茶色と、半艶の深い黒色を表現しています。

これらの技法は長年の経験と職人の知識によって受け継がれ、紀元前6〜5世紀には世界でも類を見ない高度な陶器文化を築き上げました。

古代ギリシア陶器が生まれた場所

古代アテナイ(現在のアテネ)では、多くの陶工や絵付師がケラメイコス(Kerameikos)と呼ばれる地区に工房を構えていました。
ケラメイコスは、「ceramic(セラミック=陶器)」という言葉の語源となった地名としても知られています。
この地には良質な粘土が集まり、多くのキュリクスやアンフォラなどの器が制作され、ギリシアのみならず地中海世界各地へと運ばれていきました。

筆者が2025年に訪れたケラメイコス遺跡では、当時の街区や工房があった地域を実際に歩くことができました。今では遺跡となっていますが、2500年前にはこの場所で粘土が練られ、ろくろが回り、陶工たちが器を作っていたのでしょう。ここから紹介する制作技法は、まさにこの地で受け継がれていた技術です。

ケラメイコス遺跡(筆者撮影)

制作工程

古代ギリシア陶器は、おおよそ次のような工程で制作されました。

  1. 粘土の精製
  2. 成形
  3. 絵付け
  4. 三段階焼成

それぞれの工程には、現代の陶芸とは異なる特徴があります。


粘土の精製

アッティカ地方では、鉄分を多く含む良質な粘土が用いられていました。
特に、アテナイ中心部を流れていたエリダノス川周辺から採れる灰色の粘土が、アッティカ陶器の原料として用いられたと考えられています。現在もアテネ中心部のモナスティラキ駅構内には、この古代の川の遺構が保存・展示されており、その場所を実際に訪れることができます。

アテネ・モナスティラキ駅にあるエリダノス川遺構(筆者撮影)

採取した粘土は水簸(すいひ)によって不純物を取り除き、粒子を均一にした後、十分に練り上げて空気を抜き、成形に用いられます。

現代アテネの陶芸工房で練り上げた粘土(筆者撮影)

生の状態では粘土は灰色をしています。しかし、焼成すると粘土に含まれる鉄分が酸化して発色し、古代ギリシア陶器に見られる温かみのある赤茶色になるのです。


成形

器の成型には、ろくろが使われました。古代には当然電動ろくろはないのですが、弟子がろくろを手で回したり足で蹴ったりして回転させていたため、現代の電動ろくろのように、一定の速度で成形することができました。
アテネ国立考古学博物館に展示してある陶器の破片に、当時の陶器工房の様子が描かれています。

弟子がろくろを回している様子(右上部分)。アテネ国立考古学博物館蔵(筆者撮影)

キュリクスやアンフォラなど複雑な形状の器は、器体、高台、把手などを別々に制作して、粘土が半分乾いて少し硬くなった状態で接合して組み立てられました。
それぞれの部分の乾燥状態が異なると、収縮度の違いで接合部にヒビが入ってしまうため、乾燥の管理も慎重に行っていたことでしょう。

接合はドベと呼ばれる水で溶いた粘土ペーストで行います。境界はヘラなどで丁寧に馴染ませ、継ぎ目が分からないほど滑らかに仕上げられます。


絵付け

古代ギリシア陶器では、絵の具や釉薬ではなく、精製した粘土(スリップ=化粧土)を使って文様を描きました。

下書き段階で止まっているめずらしい陶片。アテネ国立考古学博物館蔵(筆者撮影)

赤像式では、まず人物や文様の輪郭をニードルで軽く陶器表面に下書きします。

続いて、主要な輪郭をやや薄めに溶いた化粧土で描き、その外側を塗りつぶしていきます。

最後に、顔の表情や筋肉、衣服の襞などの細かな部分を、濃い化粧土を細筆で描き加えます。この盛り上がった線はレリーフライン(Relief Line)と呼ばれ、焼成後もわずかに隆起した、くっきりとした輪郭として残ります。


三段階焼成

古代ギリシア陶器は、薪を燃料とする窯で焼成されました。

下図は、古代ギリシアで窯焚きを行う様子を描いた陶板です。陶工が焼成中の窯を管理している様子が描かれており、当時の焼成作業を知ることのできる貴重な資料となっています。

古代ギリシアの窯焚きの様子を描いた陶板(ルーヴル美術館蔵・Public Domain)

黒像式・赤像式陶器では、酸化・還元・再酸化という三段階の焼成を行うことで、胎土は赤く、化粧土だけが黒く焼き分けられます。この焼成法は、釉薬を用いずに鮮やかな赤と黒のコントラストを生み出す、古代ギリシア陶器最大の特徴です。

三段階焼成による胎土の色の違い。左は再酸化によってオレンジに発色した胎土、右は還元状態を保った灰色の胎土(筆者所蔵・古代ギリシア陶器)。