キュリクス(κύλιξ, kylix)は、古代ギリシアでワインを飲むために用いられた代表的な酒杯です。
現代ギリシャ語的に「キリクス」と読まれることもあります。
浅く大きく開いた碗部に左右一対の把手が付き、高台によって支えられた優雅な姿が特徴です。シュンポシオン(饗宴)では最もよく使われた器の一つであり、内外には神話や宴会、競技など様々な場面が描かれました。
紀元前6世紀前半から紀元前4世紀前半頃まで広く制作され、とくに紀元前6世紀末から5世紀初頭にかけてアテナイで大きく発展しました。器の直径は十数センチほどのものから、40cmを超える大型品まで知られています。
その美しいプロポーションは古代ギリシア陶器の中でも最高傑作の一つとされ、陶工と絵付師の技術が最も高度に結実した器形とも評価されています。
各部の名称
キュリクスは、口縁(Lip)・杯身(Body)・把手(Handles)・脚部(Stem)・高台(Foot)から構成されます。
杯の内側中央には見込み画(Tondo)と呼ばれる円形の画面が設けられ、飲み進めるにつれて絵が現れる仕組みとなっています。シュンポシオンでは、この見込みの図像も宴席での話のネタになっていたのではないでしょうか。
※上記キュリクスは、羊皮紙陶房にて制作したものです。
キュリクスのタイプ
一見するとよく似たキュリクスですが、口縁・杯身・脚部のつながり方によっていくつかのタイプに分類されます。
大きく分けると、次の四つの系統があります。
① 口縁と杯身が連続し、脚部は独立したタイプ

器に口縁と杯身の段差はなく、脚部のみが独立した形状です。比較的初期のキュリクスに多く見られます。
この中でさらに細分化すると、以下のようなサブタイプがあります。
タイプA(Type A)、バンド・カップ(Band Cup)、カッセル・カップ(Cassel Cup)、メリソート・カップ(Merrythought Cup)
② 全体が一つの曲線で構成されるタイプ

口縁から高台まで滑らかな連続曲線でつながる、美しいシルエットが特徴です。古典期キュリクスを代表する完成形として知られています。
この中で、杯身の深さや脚部の飾りなどでタイプB(Type B)とタイプC(Type C)に細分化されます。
※羊皮紙陶房で主に制作・研究しているのも、このタイプのキュリクスです。
③ 口縁・杯身・脚部が明確に分割されているタイプ

それぞれの部分が独立した形をもっているタイプで、比較的初期の黒像式キュリクスに多くみられます。口縁がしっかりと段差で区別されているのが特徴です。
リップ・カップ(Lip Cup)、ドロープ・カップ(Droop Cup)、コマスト・カップ(Komast Cup)、シアナ・カップ(Siana Cup)、ゴルディオン・カップ(Gordion Cup) などに細分化されます。
③ 脚部がないタイプ(ステムレス・キュリクス)

脚部がないタイプのキュリクスです。簡素なつくりなため、見込み画がない黒一色の器の多くあります。比較的安価なため、豪華な酒宴用ではなく日常使いのものも多くありました。
参考文献:
Schreiber, T. Athenian Vase Construction: A Potter’s Analysis. Los Angeles: J. Paul Getty Museum, 1999.


