羊皮紙陶房と制作研究について
Q. 羊皮紙陶房は、どのような活動をしているのですか?
羊皮紙陶房は、「羊皮紙工房」から派生した、古代ギリシア陶器の探求・制作活動です。
古代ギリシア陶器の歴史や文化を調べるだけでなく、現代日本の粘土や材料、電気窯を用いて実際に器を制作し、完成した器を使うところまでを実践・記録しています。
完成作品だけでなく、材料の検討、焼成結果、失敗や試行錯誤なども紹介しながら、「作る」「使う」「知る」という三つの方向から古代ギリシアの器文化を探究しています。
Q. 古代とまったく同じ陶器を作っているのですか?
いいえ。古代と現代では、粘土、材料、成形環境、窯、燃料、焼成条件などが異なります。
羊皮紙陶房では、古代陶器の完全な複製や、考古資料と見分けがつかない模造品を作ることを目的としていません。
古代の造形や意匠、制作技法を手がかりにしながら、現代の環境で実際に制作・使用できる器を作り、その過程を通して古代の文化を理解することを目指しています。
作品が将来、古代の遺物と誤認されないよう、現代に制作されたものであることが分かる表記も施しています。
Q. なぜ電気窯を使っているのですか?
古代ギリシア陶器は薪を燃料とする窯で焼かれていましたが、同じ窯や燃料、焼成環境を現代日本でそのまま再現することは容易ではありません。
羊皮紙陶房では、現代日本の一般的な陶芸教室などで使われている酸化焼成用の電気窯を使い、だれでも気軽に古代ギリシアのキュリクスが作れるような情報を発信しているためです。
Q. なぜ釉薬を使わないのですか?
古代ギリシア陶器の黒い部分は、一般的な現代陶器のようにガラス質の釉薬を掛けて作られたものではありません。細かく精製した液体状の粘土(スリップ)を用い、焼成中の窯内環境を変化させることで、黒色と光沢が生み出されていました。
羊皮紙陶房でも、この特徴を制作研究の重要な要素と考え、基本的には透明釉などで全体を覆わず、土と化粧土の色や質感を生かす方法を試しています(釉薬成分である長石は少し配合しています)。
ただし、使用材料や焼成方法は古代と同一ではなく、現代の環境に合わせて調整しています。
Q. ギリシャで販売されている陶器のお土産とは、どのように違いますか?
アテネをはじめとする観光地では、古代ギリシア陶器を題材にした多様なお土産品が販売されていますし、ネットでも手に入ります。
著名な作品の意匠を手軽に楽しめるものや、装飾品として美しく仕上げられたものなど、それぞれに異なる魅力があります。素材や製法も、陶器、石粉入り樹脂、彩色製品などさまざまです。
羊皮紙陶房では、絵の具での彩色ではなく、土の色そのままの赤茶色と、化粧土の焼成による黒を使った陶器の器を制作しています。
キュリクスと古代ギリシア文化について
Q. キュリクスとは何ですか?
キュリクスは、古代ギリシアでワインを飲む際に用いられた、広口の浅い杯です。
多くのものには左右に把手があり、細い脚と高台を備えています。特に紀元前6~5世紀頃には、器の内外に神話、酒宴、競技、日常生活などの場面が描かれました。
ワインを飲むにつれて、器の底に描かれた絵が少しずつ現れることも、キュリクスならではの魅力です。
Q. なぜ現代にキュリクスを作り、実際に使おうと思ったのですか?
古代ギリシア陶器は、現在では主に博物館の展示品として目にしますが、本来は人々の生活の中で使われていた器です。
外形や絵を眺めるだけでなく、実際に手に持ち、ワインを注ぎ、飲んでみることで、器の重さ、把手の持ち方、酒面の見え方、内側の絵が現れる過程、香りの感じ方、口当たりなど、展示ケース越しでは分からない特徴が体感できます。
その体験を通して、古代の器をよりリアルに理解したいと考えたことが、制作の出発点です。
Q. なぜこのサイトでは「ギリシア」と「ギリシャ」が混在しているのですか?
本サイトでは、古代の歴史、文化、神話、陶器については「ギリシア」、現代の国家、旅行、食品、ワインなどについては「ギリシャ」と表記しています。
例:古代ギリシア陶器/ギリシャワイン
Q. キュリクスの中の絵が、把手に対して平行でないことがあるのはなぜですか?
古代のキュリクスを見ると、内側の円形画(トンド)が把手に対してわずかに傾いている例が多くあります。
その理由は作品ごとに異なる可能性があり、単純な作画上のずれである場合も考えられます。一方で、器を片手で持って傾けた際に、絵が見る人にとって自然な向きになるよう配慮された可能性もあります。
羊皮紙陶房では、実際に器を持って使いながら、こうした構図と使用時の見え方との関係も考察しています。
Q. キュリクスには左右に把手がありますが、どのように持つのですか?
左右にあるからといって必ずしも両手で持つ必要はなく、片手で把手と杯身を支えて持つことが一般的だったと考えられます。酒宴では、長椅子に肘をついて横たわった状態で、片手で酒杯を持つからです。
比較的小型のものの場合は、親指を把手の上に置き、ほかの指で杯身の下側を支えると比較的安定します。ただし、器の大きさや把手の形によって持ちやすい方法は変わりますし、個人のクセや好み、時代や地域による流行もあったかもしれません。
古代の図像にはキュリクスを持つ人物が描かれているものもありますが、コッタボスというワイン投げゲームの様子が描かれているものも多いため注意が必要です。
制作したキュリクスを使う体験について
※以下は、羊皮紙陶房で現在制作している器を実際に使用した経験に基づく内容です。古代陶器一般や、他の作家・製品すべてに当てはまるものではありません。
Q. キュリクスは飲みやすいのですか?
ワインを飲む器として十分に使用できますが、現代のワイングラスとは感覚が大きく異なります。
浅く口径が広いため、香りが逃げやすく、ワイングラスのように香りを愉しむにはあまり向きません。また、ワイングラスよりも飲み口が厚く多少のザラつきもあるため、飲む際に存在感があり、人によっては気になるかもしれません。さらに、ワインを多く注ぐと液面が揺れてこぼれやすいため、高さの半分程度まで注ぐよう注意が必要です(これは通常のワイングラスでもなみなみに注がないのと同様)。
飲みやすいか、という質問の答えは、「慣れと人による」としか言えません。キュリクスは飲みやすさよりも、酒面のゆらぎや器の絵、古代ギリシア体験を楽しむための器ではないかと思います。
Q. どのようなワインが合いますか?
器の内側に絵が描かれている場合は、赤ワインを注ぐと絵がいったん隠れ、飲むにつれて少しずつ現れてきます。これはキュリクスならではの視覚的な楽しみです。
白ワインやロゼワイン、オレンジワインでは、色が薄いため内側の絵が最初から見えやすくなります。古代ギリシアのワインは水で薄められていたので、ロゼワインが見た目としては古代風かもしれません。
スパークリングワインは、口径が広いため炭酸が抜けやすく、泡を長く楽しむ目的には一般的なフルート型やチューリップ型のグラスの方が適しています。
また、広口で香りが抜けやすいため、微妙な香りをワイングラスの中で愉しむワインよりも、果実味自体を愉しむようなワインや、逆に長期樽熟成で飲んだ後に香りが鼻から抜けるようなワインが合うかもしれません。
Q. ワインはどのくらい入りますか?
器によって異なりますが、直径約15cmのキュリクスでは、満水時におよそ270~280ml入ります。
ただし、縁まで注ぐとこぼれやすいため、高さの半分~2/3程度、だいたい150mlくらいでしょうか。
ワインフルボトルは750mlですので、15cm径のキュリクスだと5杯分になります。
Q. 日本酒にも使えますか?
常温または冷酒であれば、浅い杯として楽しむことができます。
口径が広いため、香りや口当たりは一般的なお猪口やぐい呑みとは異なります。古代ギリシア文化とは別の使用法ですが、日本の平盃との違いを比較するのも興味深い体験ではないでしょうか。
Q. 温かいお茶やコーヒーにも使えますか?
一般的にいうとキュリクスに温かい飲み物を注いでも問題ありませんが、羊皮紙陶房で制作している器に関していうと、吸水を抑えるために蜜蝋を浸透させる処理を行っているものもあるため、推奨はしていません。
高温の飲み物を入れると蜜蝋が軟化し、表面の状態や耐水性を損なう可能性があるためです。
Q. 食べ物を盛り付けることはできますか?
蜜蝋処理をした作品については、常温または冷たい食品であれば、小皿のように使用することもできます。
オリーブ、チーズ、ナッツ、ドライフルーツなど、ワインに添える食品との相性はよいでしょう。
ただし、釉薬がかかっていない焼き締め陶器のため、においの強いものは陶器ににおいが移る場合がありますので注意が必要です。
洗浄・保管について
※以下は羊皮紙陶房が制作し、蜜蝋処理を施した器についての説明です。
Q. 使用後はどのように洗えばよいですか?
使用後は長時間放置せず、できるだけ早く洗います。
柔らかいスポンジと中性の食器用洗剤を使い、ぬるすぎない水または常温に近い水で、やさしく手洗いします。研磨剤入りのクレンザー、硬いたわし、メラミンスポンジなどは、装飾面を傷める可能性があるため使用しないでください。
洗浄後は乾いた柔らかい布で水分を拭き取り、風通しのよい場所で十分に自然乾燥させてください。
食器洗浄機、食器乾燥機、電子レンジ、オーブンには対応していません。
Q. なぜ食器洗浄機を使用できないのですか?
高温の湯や強い水流により、蜜蝋処理や装飾面が損なわれる可能性があるためです。
また、把手や脚部は衝撃に弱く、ほかの食器と接触して破損するおそれがあります。必ず手洗いしてください。
Q. どのように保管すればよいですか?
十分に乾燥させた後、安定した棚などに立てて保管してください。
脚が細く、左右に把手が張り出しているため、ほかの食器を上に重ねることはなるべく避けてください。落下や接触を防ぐため、周囲に少し余裕を設けると安心です。
古代の陶器画には、把手のある器が壁際に掛けられているように見える例もありますが、現代の作品を掛けて保管する場合は、把手に負荷が集中しないよう十分な注意が必要です。基本的には棚置きを推奨します。
Q. 割れてしまった場合、修理して再使用できますか?
破損した器を接着剤でつなぎ、再び飲食に使用することは推奨していません。接着剤の種類や破損状態によっては、安全性や強度を確保できないためです。
専門家による金継ぎなど、飲食器への使用を前提とした修復方法もありますが、作品の材質や表面処理との相性を確認する必要があります。
飲食には使用せず、接合して鑑賞用にしたり、破片を研究資料や展示物として残したりする方法もあります。
古代ギリシアでは、陶片に名前を記して投票に用いるオストラキスモス(陶片追放)の制度もありました。破片そのものから、古代の陶器文化を考えてみるのも一つの楽しみ方です。
販売・見学・お問い合わせについて
Q. キュリクスを購入できますか?
現在は制作研究を優先しているため、注文制作や定期的な一般販売は基本的に行っていません。
今後、研究制作の過程で状態のよい作品が完成し、制作に余裕がある場合には、不定期に作品をご紹介・頒布する可能性があります。
販売を開始する場合は、本サイト上でご案内します。個別の予約や制作待ちの受付は、現在行っておりません。
このような状況ですが、ご質問やご希望のある方はお問い合わせください。
Q. 希望する絵柄やサイズで制作を依頼できますか?
現在、個別の注文制作は原則として受け付けていません。
キュリクスの制作には、成形、乾燥、絵付け、焼成など複数の工程があり、完成時期や焼き上がりを正確に保証することが難しいためです。
将来、受付方法を検討する可能性がありますが、現時点では対外的な制作体制が十分整っておりません。
Q. 技法や制作方法について個別に相談できますか?
本サイトに掲載している内容は、個人による制作研究の記録です。
掲載内容に関する簡単なご質問には回答できる場合がありますが、個別作品の鑑定、材料選定、焼成条件の設計、継続的な技術指導などには対応していません。
制作方法は、使用する粘土、化粧土、窯、焼成条件によって結果が大きく異なりますので、実践に際しては陶芸教室や材料・窯の専門家にもご相談ください。
Q. 工房を見学できますか?
羊皮紙陶房は、個人の住居内に設けた制作・研究スペースであり、一般公開している施設ではありません。
見学や直接のご訪問はご遠慮いただいております。
Q. 展示、講演、取材、執筆などについて問い合わせることはできますか?
内容や状況によっては対応可能です。
ただし、個人で運営しているため、すべてのご依頼に対応できるわけではありません。時期や内容によっては、返信まで時間をいただいたり、お断りせざるを得ない場合がございます。
お問い合わせの際は、目的、内容、希望時期、掲載・開催媒体などを具体的にお知らせいただければ幸いです。
Q. 問い合わせには必ず返信がありますか?
極力返信させていただくようにしますが、個人で運営を行っているため、内容や状況によっては返信できない場合があります。
また、返信には時間をいただくことがあります。あらかじめご了承ください。
